2015/3/12 - いよいよチケット転売禁止が民法レベルでアウトに!

 こんばんわ。中の人です。


 もう1か月も前の話題で恐縮ですが、2月10日に「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が法務省から発表されまして、去年8月の「要綱仮案」でペンディングとされていた「定型約款」規定が復活しました。


法務省:法制審議会 - 民法(債権関係)部会


 まだ「案」なので法律がこう変わると確定したわけではないですが、まあ基本的にこの方向で行くでしょうから、今回発表された内容をふまえて(当サイトでは毎度のことですが)チケット転売禁止規定について考えてみたいと思います。
 念のため先に断わっておきますが、「チケット転売がアウトに!」じゃないです、逆です。「チケット転売禁止がアウトに!」ですので、そこんとこよろしくお願いします。


* * * * *


 さて、今回発表された「定型約款」に関する規定は4項目から成っていますが、そのうち本件に関連しそうなところだけ以下に抜粋してみます。


第28 定型約款
1 定型約款の定義
 定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。
 定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。
2 定型約款についてのみなし合意
 定型約款についてのみなし合意について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型取引を行うことの合意(3において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
 ア 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
 イ 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
(2) (1)の規定にかかわらず、(1)の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。
3 (略)
4 (略)
(※ 下線は引用者)


 本エントリでは、チケットに関する約款が有効であること(*1)を前提として、転売禁止条項が上記2の(2)に該当することで「合意をしなかったものとみな」される(*2)、というストーリーで考えています。


(*1) 2の(1)を持ち出して「そもそも約款に合意したといえない」というようなストーリーにはしていません。なぜなら、この方向で話を展開すると、約款の提示方法を「合意をしたものとみなす」とされる方法に変えられてしまうとそこで終わってしまうからです。


(*2) 今回の「合意をしなかったものとみなす」ってずいぶん控えめな表現な気がします。
 ここの書き方は二転三転していて、もともと平成25年2月26日の中間試案P51では「無効とする」と書いてあったところを、第96回会議(平成26年8月26日)の「部会資料83-2」P40で『合意があったものとみなすとの構成を採ったことに鑑み、一定の条項を無効とするのではなく、みなしの対象となるべき条項から一定の条項を除外するとの構成(除外されなかった条項について合意があったものとみなす。)を採る』として、「無効とする」から「((1)で合意したとする内容に)含まないものとする」という表現に変更されました。これによって有効無効の議論に至る前にそもそも合意していない、という結論になるので、結果的には同じです(ただし、追加で個別に合意すれば有効となる余地がありますが、本件についてはそれは非現実的なので無視できると思います)。ちなみに同日の議事録を読むと、主に学者を中心に「ここは無効でいいじゃん」という意見が多かったようです。
 さらにその後、第99回会議(平成27年2月10日)の「部会資料88-2」P5で、より法律的な表現として「含まれない」から「合意をしなかったものとみなす」に変更した、という説明がされています。

(1) 第1項(定型約款の定義)の該当性
 「チケットぴあ等の約款が本要綱案にいう約款に該当しない」ということはどう考えてもあり得ないと思っていますが、一応それが大前提となりますので念のため確認しておきます。


1 定型約款の定義
 定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。
 定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。
(※ 下線は引用者)

 この記述について、第98回会議(平成27年1月20日)の「部会資料86-2」P1で、この定義の該当性については
@ ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引かどうか
A 取引の内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的かどうか
B その内容を契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体かどうか

の3点を判断すること、と説明されていますので、一つずつ見てみたいと思います。


 まず@について、チケット販売業は「ある特定の者(ぴあとかe+とか)」が「不特定多数(チケットを買う一般人)」に対して行われるものなので、該当していますね。ここが違うという人はまさかいないと思います。


 次にAについては、「画一的であることが合理的」というところで、気持ち的に「あんな条項のどこが合理的だ!」と言いたくなりますが、これはそういう意味ではなくて、いちいち相手ごとに条件を決めるよりも画一的に決めてしまったほうが合理的、という意味です(*3)。それは確かにその通りで、チケット買うたびに条件交渉するとかありえませんので、これも該当します。


(*3) 『定型約款の定義においては、その要件を@取引の内容の全部又は一部が画一的であることが両当事者にとって合理的であること、A(略)と整理している。そして、@については、どのような場合が該当するかについて、その典型的なものとして、相手方が不特定多数であり給付が均一である場合を例示している。』(※ 下線は引用者)(法制審議会民法(債権関係)部会第96回会議(平成26年8月26日)の部会資料83-2 P37)



 最後にBについては、まず「契約の内容とすること」を目的としているかといえば当然していますよね、契約にしないならいったい何なんだ、ということになりますので。ちなみに従前は「契約の内容を補充すること」というなんだかよくわからない言い回しがされていましたが、今回「補充」は外れたようです。外れた経緯は議事録がまだ出てないので分かりませんが、新しいほうが明快でいいと思います。
 さらに「特定の者により準備され」ているかどうか、これもチケット販売業者が一方的に作っていますので該当します。よって、Bも該当します。


 以上より、@ABすべて該当しますので「定型約款に該当する」ということでよいと思います。

(2) 第2項(1)号(みなし合意)の該当性

 最初にも書きましたが、ここで弾くつもりはないのでさらっと流します。


2 定型約款についてのみなし合意
 定型約款についてのみなし合意について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型取引を行うことの合意(3において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
 ア 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
 イ 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
(※ 下線は引用者)

 たとえばチケットをWebで買うときは利用規約に同意したうえで購入しているのが前提ですので、アに該当すると言える(*4)でしょう。よってここは該当するものと考えます。


(*4) 一方で、たとえば電話で購入すると約款について何も言われないので、アの合意はもちろんないし、イの「あらかじめ表示」すらしていないと言える場合もありそうですが、そんなものは売るときの手順をちょっと直せば済むことですので、今回はそこを突っ込むことはしません。



(3) 第2項(2)号(不当条項)の該当性
 ようやく本題です。第2項(1)で有効に成立した約款でも、(2)によっていわゆる「不当条項」は合意したことにならず、したがって守る義務はない(=拘束力はない)ということになるので、転売禁止規定が「不当条項」に該当するのではないか、ということを考えます。


(2) (1)の規定にかかわらず、(1)の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。
(※ 下線は引用者)

 この条文の要件は大きく2つです。
@相手方の権利を制限し、または義務を加重する条項
Aその取引の態様や実情・取引上の社会通念に照らし、信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項

であればこれに該当することになります。


 まず@についてです。転売禁止条項があることで、我々買い手はチケットが不要になるなどして処分したいと思ってもそれができません。本来ならば(法律上制限された行為でない限り)購入したものをどう処分するかは買い手の自由であるはずですが、その権利を制限されているわけですから、完全に「相手方の権利を制限」していると考えられます。よって@は該当します。


 次にAについてですが、長いのでまず前半の「その取引の態様や実情・取引上の社会通念に照ら」すとはどういうことなのかという点から見てみます。まず「取引の態様」とは、中身をちゃんと読んでなくても契約が成立するという約款取引の特殊性を意図しているようです。これは重要ですよね。そして「実情や取引通念」を並べることで、その他の事情も総合的に見て判断します、という趣旨だということです(*5)。


(*5) 『定型取引の態様というのは抽象的に言えば先ほど申し上げたような中身をよく見ないでも契約が成立していくという特殊な効果が発生する,あるいは特殊な取扱いになるという部分ですけれども,それがどのように行われるのかの実情でありますとか,あるいはその当該取引ごとにどのような取引通念に支配されているのかといったことも当然理解しながら信義則に反して相手方の利益を一方的に害するのかどうかということを判断していただきたいという趣旨でこういった要素を並べたというところでございます。』(※ 下線は引用者)(法制審議会民法(債権関係)部会第96回会議(平成26年8月26日)の議事録 P39)
 『(2)では、定型約款に特有の考慮事情として、「定型取引の態様」が挙げられているが、これは、契約の内容を具体的に認識しなくとも定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなされるという定型約款の特殊性を考慮することとするものである。』(法制審議会民法(債権関係)部会第98回会議(平成27年1月20日)の「部会資料86-2」P4)



 ところで、チケット販売の場合、約款の中身を実際に読んだかどうかにかかわらず契約は有効に成立していると考えられるわけですから「その取引の態様」の部分はいいのですが、取引通念上はどうか、と言われるとちょっと詰まります。チケットが転売も返品もできないのはもう常識だろう(それが取引通念だろう)という考えもできるからです。
 しかし、今の常識が常に正しいわけではありません。チケットの転売(二次流通)システムは海外では普通に構築されていますし、国内でもヤフオクをはじめとしたWeb上の二次流通サイトや現実世界の金券ショップで現実に転売されているという事実がありますから、こういった状況すべてを無視して現行ルールが常識である、と断定することはできないと考えます。むしろそういう状況を考えれば、確固たる取引通念はまだ存在しない、と考えるべきだと思います。
 またそもそも、すでに確立した慣行ならそれが妥当かどうか関係なく取引通念である、というような考え方は、どんな無茶苦茶な条件でもずっと昔からやっていれば勝ち、みたいな結論になってしまいますので、そのような考え方は許されないと思います。


 次に後半、そういう事情に照らして「信義則に反して相手方の利益を一方的に害」しているかどうかを考えます。あ、原文では「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して」ですが、民法第1条第2項=信義則です(*6)。


(*6) 民法第1条2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
『信義誠実の原則(しんぎせいじつのげんそく)とは、当該具体的事情のもとで、相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという法原則をいう。信義則(しんぎそく)と略されることが多い。』(信義誠実の原則 - Wikipedia



 信義則というのは超基本原則なので、具体的にこういうものだと決めつけられないのですが、今回については「その条項だけ見たら相手方に不利でも、全体としてみればそれを補う定めがあれば信義則に反しない」という説明がされています(*7)。これを逆に読めば、その条項自体が相手にとって不利で、ほかにそれをフォローできるような救済措置がなければ、信義則違反とされると考えます。


(*7) 『また、「(取引)の実情」や「取引上の社会通念」を考慮することとされているが、これは信義則に反するかどうかを判断するに当たっては、当該条項そのもののみならず、取引全体に関わる事情を取引通念に照らして広く考慮することとするものであり、当該条項そのものでは相手方にとって不利であっても、取引全体を見ればその不利益を補うような定めがあるのであれば全体としては信義則に違反しないと解されることになる。』(※ 下線は引用者)(法制審議会民法(債権関係)部会第98回会議(平成27年1月20日)の「部会資料86-2」P4)



 さあそうなると、チケットの転売禁止というのはさっきも書いた通り買い手にとって不利以外の何物でもないわけですが、それを補う措置、すなわち返品も許されないわけですから、Aにもばっちり該当しています。


 よって以上より、@Aとも該当しますので、転売禁止条項は第2項の(2)に該当してアウト!ということになると考えます。


* * * * *


 というわけで、今回の要綱案の方向で民法が改正されれば転売禁止規定は有効に成立しておらず拘束力がないという結論になるので、各社は早いとこそんな無意味な転売禁止条項はばっさり削除してほしいところです。
 あ、この論法だと「じゃあ返品を認めれば転売禁止でいいんだよね?」ということになります。もちろんそういうことになりますが、事業者としてはそっちのほうが直接的に収益に響くので興業ビジネス自体が成り立たなくおそれがあることから、常識的に考えれば返品解禁より転売解禁を採用するのが自然だと思っています。


 まあそれ以前に、現行法でも消費者契約法第10条違反で無効(*8)だと思ってるし、そっちのほうが筋がいいと思ってますけどね!!(←ここまで書いてそれかよ)


(*8) 消費者契約法第10条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。



* * * * *


2015/3/13 朝 言い回しをちょっと修正 → 昼にもうちょっと修正
2015/3/12 20:12 公開

お勧めコンテンツ

<広告>