チケット転売肯定論2 (違法編)

微修正:2015/2/27 第1版:2014/4/30

 コンサート等のチケットが返品できないうえに譲渡(転売)もできないことについては、当サイトでは以前から反対の立場をとってきていますが、そもそもそういうルールって違法なんじゃないの?という気がしてきたので、それについて考えてみたいと思います。

 なお、法律の話は別としてそもそも転売はできるべきだ、という意見については下記ページで書いていますので、よろしければこちらも合わせてご覧ください。

チケット転売肯定論

 いちおう以下の文章は自分なりにネットなどで調べた結果をまとめたものですが、私は法律の専門家ではないので、解釈などに誤りがあるかもしれません。もしおかしい点があったらTwitterでご指摘いただけるとありがたいです。

注1) チケットを売る側としては、プレイガイドや主催者などいろいろな立場の企業がいますが、チケットを売る立場の企業をまとめて言うときには「チケット業者」と書きます。
注2) 引用文中の下線は筆者が引いたものです。
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1. ルールの再確認

 チケットは転売ができない(かつ返品もできない)と言っていますが、もちろんそんな法律があるわけではない(ダフ屋行為はいちおう条例で禁止されていますが)です。これを決めているのはプレイガイド(チケットぴあ等)の利用規約です。

 現在、一般の人がチケットを買う場合は、チケットぴあ、ローチケ、イープラスの三社のどれかから買うのがほとんどだと思いますので、これらの各社の利用規約から該当する部分を抜粋してみます。これらの文章は抜粋時点(2014年4月)時点のものですので、最新版は各社のサイトでご確認ください。

チケットぴあ 個別規定:チケット販売
第7条:(チケットの取替・変更・クーリングオフ)
1. チケット購入契約が成立したチケットは、理由の如何を問わず、取替、変更、キャンセルはお受けできません。なお、本サービスで販売したチケットには、クーリングオフは適用されません。

第11条:(禁止事項)
1. 会員は、以下の行為を行ってはならないものとします。以下の行為が判明した場合、当社または興行主催者が自らの判断で購入済みのチケットを無効とし、チケット代金の返金を認めず、入場を認めないことがあります。既に入場している場合には退場を命じられることもあります。
 a. 当社から購入したチケットまたはチケット引換え時に必要な番号を、営利を目的として第三者に転売、または転売のために第三者に提供する行為
 b. チケット券面金額より高い価格で転売し、または転売を試みる行為、オークションまたはインターネットチケットオークションにかけて転売し、または転売を試みる行為
ローソンチケット チケット販売に関する規定
第2条(チケットの取替、変更、返品の可否)
お客様の希望により購入されたチケットは、理由の如何を問わず、取替、変更、キャンセルはお受けできません。なお、購入したチケットは、返品の対象とはなっておりません。

第7条(禁止事項)
当社から購入したチケットを、チケット券面金額を超える金額にて転売すること、またはインターネットオークション等へ出品する等の転売を試みる行為、転売を前提にチケットを購入する行為は禁止としております。前述の行為が発覚した場合、興行主催者自らの判断で購入済のチケットを無効とした上で、チケット代金の返金並びに入場を認めないことがあります。また、既に入場している場合には強制的に退場を命じられる場合もあります。また、当社使用のチケット券面であっても、当社認定販売代理店以外の「チケットショップ」や「購入代行屋」「ダフ屋」「オークション」等から購入したチケットのトラブルについて、当社は一切責任を負いません。
イープラス 個別規定 チケット販売
第3条(チケットの取替・変更・キャンセル)
1. お客様のご希望で購入決定されたチケットは、理由の如何を問わず、取替・変更・キャンセルはお受けできません。なお、弊社で購入されたチケットはクーリングオフ対象外です。

第17条(転売の禁止)
1. 興行主催者からの取り決めとして、弊社から購入されたチケットまたはチケット引換え時に必要な番号は、営利を目的として第三者に転売し、または転売のために第三者に提供する事は禁止されております。ダフ行為や各種メディアを用いて不特定多数に向けて転売行為を行った場合は、営利目的で行ったものと弊社がみなすことにご同意いただき、本条違反に該当することをあらかじめご了承ください。
2. 当該行為が判明した場合、弊社の判断によりお申し込みを無効とさせていただき、会員資格を喪失させていただく場合がございます。
3. 当該行為が判明した場合、興行主催者が自らの判断で購入済みのチケットを無効とし、チケット代金の返金を認めず、入場を認めないことがあります。既に入場している場合には退場を命じられることもあります。
4. 弊社から直接購入された以外の「掲示板・オークション」や「チケットショップ」「購入代行業者」「ダフ屋」等から購入したチケットのトラブルについては一切の責任を負いません。

 以上のように、三社とも返品も転売も不可となっています。で、これのどこが違法なの?という話ですが、まず原則をいうと、契約というのはどんな内容であっても両者が同意しさえすれば原則として自由です。これを「契約自由の原則」といい、法律の世界では当然のこととされています(民法91条)。
 しかし、「原則として」というからには当然例外もあって、本当にどんな契約でも有効となってはいろいろ問題がありますので、ダメなものもあります。よくあげられる例ですが「人を殺すことを約束した契約は無効」というようなことです。「公序良俗に反する契約は無効」と書かれた民法90条がこれを表していますが、これだけでは具体的にどんな契約が無効になるのかよくわからないので、さらにいろんな法律で「こういう契約は無効」という例外を細かく定めています。

参考:民法
(公序良俗)
第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
(任意規定と異なる意思表示)
第九十一条  法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。

 そこで、私としては、返品できないのはともかく、転売ができないというのは、そういう「無効」だとされる内容に該当するんじゃないですか、と言いたいわけです。法律で「無効」だと決められていることを利用規約に書いてもダメ(違法)だということです。そこで、以下ではその可能性を考えていきたいと思います。

2. 消費者契約法10条に反するのではないか

 では、さっそく問題点を考えていきたいと思います。最初は「消費者契約法10条」の問題です。

 消費者契約法は、さっき書いた「契約自由の原則」の例外の典型的なものだと思います。消費者契約法を管轄する消費者庁では、「消費者契約法」はなぜ、できたの?」というパンフレットの中で、『消費者と事業者との間には情報の質や量、交渉力に大きな差があり、そのために契約トラブルが増え続けています。力の差のある者が対等に取引するためには、その差を埋めるルールが必要です。』と説明しています。

 チケットの利用規約などまさにその説明にぴったりですので、私たち消費者としては、利用規約が消費者契約法に違反していないかどうかを考えてみることは重要だと思います。

 さて、消費者契約法では、事業者と消費者との契約(消費者契約)で、
 @ 民法などに比べて消費者の権利を制限or消費者の義務を加重するもので、
 A 民法1条2項に反して消費者の利益を一方的に害する、
という2つの条件を満たす契約条項は無効と定められています。

参考:消費者契約法
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 このうち、返品不可の上に譲渡(転売)もできないという条件は明らかに@の消費者の権利を制限していますから、ここはどう考えても当てはまるでしょう。問題はAのほうですが、「民法1条2項」に何が書いてあるのか分からないと条文の意味が分かりません。そこでまずこれについて調べてみると、Wikibooksによれば、民法1条2項は『私権の行使及び義務の履行における信義誠実の原則について規定』しているとあります。

 それって何?って感じですが、Wikipediaでは『信義誠実の原則(しんぎせいじつのげんそく)とは、当該具体的事情のもとで、相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという法原則をいう。』と説明されています。

参考:民法
(基本原則)
第一条  2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

 でもやっぱりこれはしょせん基本原則であり、具体的にどういうときに該当するのかは実際の裁判でどう考えられているかを見てみないとわからないので、次に裁判所の考えを調べてみます。

 やはりここでは、消費者契約法10条に該当するかどうかが争われた事件での判断を調べるのが一番近いと思います。この問題で一番多いのは、アパート等の敷金や更新料が消費者契約法に違反しているのではないか、という争いのようです。その判例を読んでみると、消費者契約法10条のA番目の条件に該当するかどうかは、次の3つを総合的に考えて決める、ということらしいです。

@ その条項の性質
A 契約が成立するに至った経緯
B 消費者と事業者との間の情報の質や量、交渉力の格差、その他諸般の事情

参考:平成23年7月15日 更新料返還等請求本訴,更新料請求反訴,保証債務履行請求事件 判例
消費者契約法10条は,消費者契約の条項を無効とする要件として,当該条項が,民法1条2項に規定する基本原則,すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることをも定めるところ,当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは,消費者契約法の趣旨,目的 (同法1条参照)に照らし,当該条項の性質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。

 とすると、転売(&返品)禁止がこの条件に当てはまれば無効である可能性が非常に高くなりますので、該当するかどうか考えてみたいと思います。

*  *  *  *  *

 まず最初に@つ目の判断基準、「その条項の性質」についてです。「性質」ってどんな性質だかよく分かりませんが、裁判所はこれについてはまず対象となっているお金の趣旨を検討し、それに関する取り決めに合理性があるかどうかということを見ているようです。

参考:平成23年7月15日 更新料返還等請求本訴,更新料請求反訴,保証債務履行請求事件 判例
(1) 更新料は,期間が満了し,賃貸借契約を更新する際に,賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは,賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情,更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し,具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和58年(オ)第1289号同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照),更新料は,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。
(2) そこで,更新料条項が,消費者契約法10条により無効とされるか否かについて検討する。(略)更新料が,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは,前記(1)に説示したとおりであり,更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。

 とすると、チケット料金の性質はライブを観ることに対する対価以外の何ものでもありません。そして、チケット業者は、そのチケットを買った「誰か」にライブを観せるためにチケット料金を受け取ったのであり、「誰か」が誰であるかはもともと関知していません。すなわち、チケットを最初に買った人からチケット業者は収入が得られているわけですから、それを転売されたところでチケット業者側に何か不利益が発生するとは思えません。そうすると、このような規制をかける合理性はないと思われます。

 したがって、「当該条項の性質」上、転売を禁ずるような条件の必然性は認められないと言うべきでしょう。

*  *  *  *  *

 次に、Aつ目の「契約が成立するに至った経緯」についてですが、さっきの判決文を読んでも経緯について具体的に検討した形跡が見当たりません。この事件では、契約は問題なく成立していると考えられていたようです。

 ですので自分で考えるしかありませんが、Webでチケットを買っていれば「規約に同意」的なボタンを押しているので、経緯についてはとりあえず問題ないと考えます。ただ、後でも書きますが、Web購入以外の方法だと経緯に問題がある場合もあるんじゃないかと思っています。

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 最後に、Bつ目「消費者と事業者との間の情報の質や量、交渉力の格差、その他諸般の事情」です。情報の質と量や交渉力というのはなんとなく分かりますが、それだけでなく、とにかくそれ以外のいろんな事も全部ひっくるめます、という感じですかね。

 この点については、裁判所は、そういう条項があることがよく知られていて、過去の判例でも問題ないとされてきている条件ならば、契約書にしっかり書いてあれば有効だ、と考えているようです。

参考:平成23年7月15日 更新料返還等請求本訴,更新料請求反訴,保証債務履行請求事件 判例
一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや,従前,裁判上の和解手続等においても,更新料条項は公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると,更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。

 この判断基準でチケットの転売禁止条項を考えてみますと、転売禁止条項があることはよく知られている、という点については同じだと言えるでしょう。しかし、転売禁止が違法かどうかということは裁判で争われた事例がないわけですから、判例うんぬんの部分は該当しませんので、片方の条件しか当てはまりません。
 仮によく知られていさえすれば問題ないとしてしまうと、どんな無茶苦茶な条項であろうが、よくあることなら有効、ということになってしまいます。それでは事業者のやりたい放題であり、消費者契約法の趣旨と完全に反してしまいますから、そのようなことはありえず、両方とも該当しないとダメだと考えるべきでしょう。

 この事件では、両方とも該当しているので更新料特約は有効、ということで終わってしまっているので、それ以外の基準はよく分かりません。これではチケット業者と私たち消費者との間に「情報の質や量、交渉力」に差があるのかどうかわからないので、別の判例を探してみると、「条件は最初から書いてあるんだから質や量に差はないし、不動産屋はたくさんいるんだから、他と比較して自分に不利でないところを選べばいいから、交渉力も大きな差があるとはいえない」と判断された例がありました。

参考:平成23年7月12日 保証金返還請求事件 判例
賃貸借契約においては,本件特約のように,賃料のほかに,賃借人が賃貸人に権利金,礼金等様々一時金を支払う旨の特約がされることが多いが,賃貸人は,通常,賃料のほか種々の名目で授受される金員を含め,これらを総合的に考慮して契約条件を定め,また,賃借人も,賃料のほかに賃借人が支払うべき一時金の額や,その全部ないし一部が建物の明渡し後も返還されない旨の契約条件が契約書に明記されていれば,賃貸借契約の締結に当たって,当該契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上,複数の賃貸物件の契約条件を比較検討して,自らにとってより有利な物件を選択することができるものと考えられる。そうすると,賃貸人が契約条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め,賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば,それは賃貸人,賃借人双方の経済的合理性を有する行為と評価すべきものであるから,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別,そうでない限り,これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない

 とすると、チケット転売禁止については、3社すべてが同じ条件なのですから、比較検討することができません。不動産業者ならたくさんいますから(ほとんどの業者の条件が似たようなものだとしても)ある程度は選ぶことができます。しかし、チケット業者は事実上3社しかいないので、選ぶことなどできません。

 これはすなわち、判例がいうところの「条項に関する情報の質及び量並びに交渉力」に差があるかどうか、という点に影響してくると思います。不動産ならば、条件交渉こそできなくても消費者には業者を選ぶことができるので、業者だけが一方的に有利とはいえない、ということだと思われますが、チケットに関してはこの点が全く違いますので、消費者側には交渉力がなく、チケット業者が一方的に有利だと言えるでしょう。よって、Bの判断基準にはひっかかると考えられます。

*  *  *  *  *

 以上から、最高裁判所の示した3つの条件を総合的に判断すると、チケットの転売を禁ずる条項は
 @ 当該条項の性質上、合理性がなく
 A 契約は有効に成立しているとしても
 B 消費者側には交渉力がほとんど皆無である
ことから、このような条項は「信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」と考えられ、消費者契約法10条に反し無効ではないかと思います。

3. 民法にも反するのではないか

 また、転売禁止条項が発動するとチケットは無効とされてしまうわけですが、そのやり方にも大きな問題があると思います。

 チケット業者の利用規約によれば、判断は興業主催者(ここでは「消費者ではない」ということが重要なので、判断するのが契約相手であるはずのチケット業者でない、ということは気にしません)が一方的に行うことができます。しかも、判断がなされてしまうと、それが間違いである可能性も考慮せず一方的に契約を解除することができ、事前どころか事後通知もなされないため消費者側に反論の余地が一切与えられません。

 一般的には、一方的に契約を解除できる特約というのはあります。しかし、普通ならば、一方的に契約を解除されても、その判断が間違っていると思えば裁判で争って解除を撤回させたり、損害賠償を求めることが可能です。

 ところが、チケットという商品の性質からすると、契約を無効とされたことを通知してもらえないのであれば、その事実を把握できるのはライブ会場現地に着いたときです。ライブが始まるまであと数時間、へたをすれば数分という時点から無効判断の是非を争うことは事実上不可能です。

 とすると、実際に消費者が被る不利益を考えると、このようなやり方が許されてよいとは思えません。これは、民法90条の公序良俗に反すると言ってもよいのではないかと思います。

 また、さっきも書いた通り、チケットが転売されてもチケット業者に損害は発生しないはずなので、転売されたからといってチケットを無効にする(契約を解除する)必然性がありません。それをあえて解除すると決めているのですから、契約上は一見私たち消費者側に責任があるように見えますが、そもそもそのルール自体に合理性がないので、契約解除はチケット業者側の一方的な都合によるものと言えます。
 だとすると、むしろ解除による不利益は事業者側が負うべきであり、それを「チケット料金を返さない」という形で私たち消費者に負わせるのはおかしいと考えます。

 そういう意味でも、この条項は公序良俗に反していると言えるのではないかと思います。

参考:民法
(公序良俗)
第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

4. 消費者契約法9条1項にも反するのではないか

 もし、消費者契約法10条および民法上はそこまでの違法性があるとはいえず転売禁止条項そのものは有効であるとしても、消費者契約法9条1項の問題はあると思います。

 消費者契約法9条1項では、「契約解除に伴う損害賠償の額や違約金を決めた条項で、その契約解除に伴い事業者に発生するであろう平均的な損害額を超える部分は無効」であるとしています。

参考:消費者契約法
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

 ここで、もう一度利用規約を見てみます。とりあえず代表としてぴあの規約の該当箇所を見てみると、「当社または興行主催者が自らの判断で購入済みのチケットを無効とし、チケット代金の返金を認めず、入場を認めないことがあります」と書かれています。

 この条文からは、チケット業者側が契約を解除するけれども、それは消費者の契約違反によるものだから、お金は返しませんよ(だから契約違反をするな、という強制力として働かせる)、という意図が読み取れるというのは異論はないでしょう(そういう意図でなかったとしたら、なぜ返金しないのか理由がまったく分かりません)。

 そうすると、上に書いた消費者契約法9条1項の条文の最初の「当該消費者契約の解除に伴う(略)違約金を定める条項」に該当すると考えられます。

 この考え方が正しいかどうか、判例を探してみると「大学合格時に支払った授業料等について、入学を辞退しても返さないという規定は消費者契約法9条1項に該当する」と考えられているようです。この規定は学生が入学を辞退することを間接的に押しとどめようとする効果もあるから、という理由づけがされているので、チケット販売契約を解除してもお金を返さないという規定が転売をやめさせようとする効果を狙ったものと同じと考えられます。
 だとすると、やはり転売に伴ってチケットが無効とされても返金しないという規定が消費者契約法9条1項に該当する、と考えるのは間違っていないと思います。

参考:平成18年11月27日 不当利得返還請求事件 判例
不返還特約は,入学辞退(在学契約の解除)によって大学が被る可能性のある授業料等の収入の逸失その他有形,無形の損失や不利益等を回避,てん補する目的,意義を有するほか,早期に学力水準の高い学生をもって適正な数の入学予定者を確保するという目的に資する側面も有するものといえる。以上によれば,不返還特約のうち授業料等に関する部分は,在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有するものと解するのが相当である。 (※下線部は原文通り)

 そうしたら次に、違約金の額について「平均的な損害を超える部分は無効」となりますので、「平均的な損害」っていくら?という話になります。

 ちょっと考えてみると、主催者はチケットが売れたらライブの準備を進めるのだからそこにお金はかかっており、契約を解除したら損害が発生するから、チケット料金を返す必要はない、という見方もできそうです。しかし、普通はチケットが売り切れようと余ろうとライブは実施されるのであって(時々あまりにも売れなくてライブが中止になることもありますが、今回問題としているような個々の契約解除とは状況が違う)、初めからそのチケットが売れていなかったとしても主催者は同じだけのお金を使ってライブを行うはずです。

 そうすると、そのお客との関係では何も損害が発生していないと思われますので、チケットを無効にしても「平均的な損害」は何もなく、消費者契約法9条1項に基づき全額を返さなければならないと考えられます。

 この考え方は、さっきの入学金返還の事件において裁判所が「学生が入学することが確定するのは4月1日なので、それ以降に入学を辞退したなら大学はその学生のためにお金を使っちゃってるから返還しなくてよいが、3月31日までに辞退したならまだお金を使ってないはずだから損害は発生していないはず」と言っているので、これとも一致すると思います。

参考:平成18年11月27日 不当利得返還請求事件 判例
一般に,4月1日には,学生が特定の大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるものというべきである。そうすると,在学契約の解除の意思表示がその前日である3月31日までにされた場合には,原則として,大学に生ずべき平均的な損害は存しないものであって,不返還特約はすべて無効となり,在学契約の解除の意思表示が同日よりも後にされた場合には,原則として,学生が納付した授業料等及び諸会費等は,それが初年度に納付すべき範囲内のものにとどまる限り,大学に生ずべき平均的な損害を超えず,不返還特約はすべて有効となるというべきである。 (※下線部は原文通り)

5. ほかにも、法的に問題なことがあるのではないか

 ここまでは規約がおかしいという話をしてきましたが、ここからは規約そのものではなく、いまのチケット販売も含めたいろんなやり方に問題があるんじゃないか、ということを挙げていきたいと思います。

@ 規約をしっかり読んで購入することができない場合もあるのではないか

 チケットをWebサイトから購入すれば、規約に同意するボタンが途中で必ず出てくるので、とりあえず同意していることにはなります。しかし、チケットは電話購入という方法もあり、この場合電話口で利用規約をすべて読み上げるわけではないので、規約を事前に知るすべはありません。これでは消費者が利用規約に同意しているとは言えず、利用規約の効力が及ばないのではないでしょうか。
 また、店頭(コンビニやぴあの店舗など)で直接購入した場合も規約を読んで同意する機会はありませんので、同様だと考えます。

 さらに、Webで購入したとしても、即完しないチケットならともかく、発売後瞬殺されるようなチケットでは、Webでの一般発売は0.1秒を争う作業です。そんな状況で利用規約をのんびり読む人はいません。利用規約を読んでいる余裕など絶対にない方法でチケットを売っておきながら、「規約に合意してますよね」という言い分はとても通らないのではないでしょうか。

 なお、「自発的にネットを調べれば見れる」とかいうのはなしです。個々の取引の過程で条件が示されなければ、その取引において同意を取ったとは言えないと思いますので。

 あと、チケットに「営利目的の転売禁止」と書いてあるというのもなしです。チケット券面は購入後でないと見れないからです。後出しの条件でも有効になるとされてはたまりません。

A 転売チケットを持った客を現地で追い出すことがあるようだが、それは違法ではないか

 詳しくはチケット転売肯定論のほうに書いてありますが、オークションなどで転売されたチケットをチケット業者側がマークし、現地でその席に来た人を追い出す、という行為が一部で行われています。しかしこれも違法じゃないかと思います。

 なぜかといいますと、まずチケットとは何かという話から始めますが、これはライブを見るという権利を紙に表したものであると言えます。これに異論がある人はいないと思います。そうすると、チケットを買うとはどういうことかというと、私たち消費者は「ライブを観る」という債権を買ったとも言えるでしょう。

 となると、チケット転売を禁止するということは、法律上「債権譲渡の禁止」を定めたルールであるということになります。そうなると、民法では「債権譲渡禁止の特約は、そのことを知らなかった人に対しては主張できない」というルールがありますので、これが適用されることになります。

参考:民法
(債権の譲渡性)
第四百六十六条  債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。

 つまり、チケットを買った人が転売禁止について知らなければ、チケット業者は「そのチケットは譲渡禁止だから、あんたは入れません」と買った人に対して主張できないはずで、買った人を現地で追い出すことはできないはずなのです。

 これについては「買った人は本当に知らなかったのか」ということが問題になるでしょう。少なくともチケットの券面に「転売チケットは無効」と書いてあれば、全然知らなかったとは言いにくいです。しかし、問題はそれをいつ知ったか、ということです。この点について、裁判所は「債権の譲渡を受けたとき」と考えているようですので、チケットを買った後で「転売チケットは無効」だと知ったとしても関係ありません。買おうとしているチケットが譲渡禁止特約付きのものだと最初から知っていたなら別ですが、チケットを受け取って初めて券面の記載に気づいたのであれば、全く問題ないでしょう。

参考:東京地判平成24年10月4日判時2180号63頁
・・・債権の譲渡禁止の特約についての善意(民法466条2項ただし書)とは,譲渡禁止の特約の存在を知らないことを意味し,その判断の基準時は,債権の譲渡を受けた時であるところ,・・・

法律コラム|久保井総合法律事務所 より

 しかし、実際には、事前に譲渡禁止について知っていたかどうかなど一切考慮せず、転売された(と思われる)チケットを持ってきた人を一方的に追い出しているのですから、本来なら転売禁止を主張できないはずの人まで追い出している可能性が高いです。そうだとすると、そういう人を追い出しているチケット業者の行為は、違法の疑いを免れないと考えます。

*  *  *  *  *

 ここで、「チケット転売禁止は、転売したチケットを無効にする、と言っているのであって、転売行為を無効にするとは言っていないから、債権譲渡を禁じたものではない」という反論が考えられますが、事実上は同じことですので、そのような言い分は単なる脱法行為であると思います。

 また、仮にそうであったとしても、チケット券面には「営利目的の転売禁止」のような言葉しか書かれていないので、一般的に見て「債権譲渡禁止」を定めたものであると理解されてもやむを得ないでしょう。これはそのような記載をしたチケット業者の責任なので、「実際は債権譲渡禁止ではない」という言い分は認められないと考えます。

 さらに、債権譲渡を禁じたものではなく、契約通りにチケットを無効にしただけだ、という主張を認めるならば、チケットの有効・無効はチケット業者とそれを買った人との間の取り決めにすぎませんので、買った人から転売された第三者には何も関係ありません。転売行為自体が何かの法律に反して無効であるならば良いのですが、そのような法律はないので、契約当事者でない第三者に対してチケットの無効を主張して追い出すことは法律上なんの根拠もなく、不可能であると考えます。

*  *  *  *  *

 以上、いろいろと書きましたが、今のチケット業者のやり方は規約にもそれ以外のことにも法的な問題が多いと思いますので、はやく転売禁止条項は削除してほしいと思います。この条項さえなくなれば、ここに書いたことは、規約そのものの有効性に関すること以外は問題でなくなりますので。


【履歴】 ※ なお、表現の微修正レベルの改版は割愛しています。


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