微修正:2017/3/7 第4.3版:2017/2/21
コンサート等の入場券(以下「チケット」)には、「営利目的の転売禁止」という条件が付されています。しかし、実態として転売はネットオークションやSNS等で日常的に行われております。それは転売したくなる、あるいはせざるをえない状況があるからであり、その状況が改善されない以上は転売をいくら禁止してもなくなるはずはありません。
私は、現在のようなチケット販売のやり方を続けている限りはチケットの転売は禁止すべきではないと考えていますので、以下それについて書きたいと思います。
なお、転売と一口に言いますが、大きく2種類に分けられると思います。一つは購入額より高く売ろうとするもので、いわゆる転売ヤーなどと呼ばれている人たちの行為です。もう一つは、余ってしまったので仕方なく処分するために売りに出すものです。本稿では、便宜上前者を「営利目的の転売」、後者を「処分目的の転売」と呼びます。
かなり長くなりますが、話の流れは下のような感じです。
現在は、転売はルール上はできないことになっております。まず最初に、それらの現状を確認してみたいと思います。
よく知られていることですが、いわゆる「ダフ屋」行為は法でほぼ禁止されています。といっても法律ではなく、各都道府県が制定する条例(たとえば、東京都だと「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」)によって禁じられています。都道府県ごとと言っても、たいていどこも似たような条文なので、代表として東京都の条文を取り上げます。
これによると、会場周辺でチケットを売っている行為はアウト、また転売目的の場合は買う行為そのものがアウトとされます。ただし、自分が使うためならダフ屋から買ってもOKですし、会場周辺でなければ(公共の場所でなければ)転売目的で売ってもOKということになります。なお、インターネット上が「公共の場所」に該当するかどうかについては、いまのところ裁判例などがないため、確定的なことは言えない状況です。
ただし、2005年に「ネットは「公共の場所」でない? 無料入館券販売「ダフ屋」適用見送り」というニュースが出ており、これによると少なくとも2005年の時点では警視庁はインターネット上を公共の場所と解釈するのは無理があると考えていたようですので、今も見解が変わっていなければ逮捕されることはないでしょう。
ちなみに、最初に「ほぼ禁止されている」と言ったのは、禁止されていないところもあるからです。条例は都道府県単位のため、このような条例がない都道府県ではダフ屋行為を行っても全く問題ありません。私が調べた限りでは、2013年5月時点では、青森県、鳥取県、山口県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の6県ではそのような条例は存在しないようです。
ただし、勘違いしてはいけないのは、この条例は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて都民生活の平穏を保持する(第1条)」ためのものであって、経済統制法ではありません。チケット転売という行為そのものを否定したのではなく、生活の平穏を乱すような行為を禁じるものですので、この条例をもって転売そのものが悪いことだという根拠にはならないことに注意する必要があります。
さらに言えば、ダフ屋が都民生活の平穏を脅かすようなことはほとんどありません。会場前でうろうろしてチケットを買ったり売ったりしているだけです。無理やりチケットを売りつけたり巻き上げたりというような行為は、昔はあったのかもしれませんが、少なくともこれまで何百本かライヴに行った中では一度も見たことありません。そんなことをすれば、条例どころか暴対法で即引っ張られてしまうからです。したがって、(最近はダフ屋も少なくなってきていますが)今のダフ屋が都民生活を脅かしているようなことがないならばこのような規制は条例の目的に反しており、単なるチケット転売行為だけを見れば違法性を見いだせないことから、ダフ屋行為を一律に禁止すること自体がおかしいと考えています。
それ以外に実際の事例としては、大量にチケット確保・転売を行っていた人が古物営業法違反で逮捕されたことがあるようです。こちらはチケットが古物にあたるからで、単純に無免許で古物商を行っていたということで逮捕されたという話ですので、転売行為そのものによって逮捕されたわけではありません。
ですので、これをもって転売そのものが犯罪行為だということにはなりませんので、勘違いしないようにしなければなりません。
なお、ほかにも価格統制令での逮捕例などもあるらしい(起訴されたかどうかは不明)ですが、法の趣旨からいうとかなり無理筋だと思います。
契約といっても、私たちがチケットを買うときに店頭で契約書にサインすることはありません。じゃあ何のことかというと、具体的には、チケット購入時にチケットぴあ、ローソンチケット、イープラスといったプレイガイド(以下「プレイガイド」とし、プレイガイド/主催者の区別なくこれらを指したい場合は「事業者」と書きます)が提示している利用規約と、チケットそのものに書かれている注意事項の2つです。同じだと思っている方も多いかもしれませんが、チケットの裏面の注意事項をよく見ると「主催者からのお願い」などと書かれており、プレイガイドとの契約となるチケット購入時の利用規約とは別のものです。実際にこれらをしっかり読んでいる人はほとんどいないと思いますが、契約は「読んでないから知らない」ということは通用しませんので、あらためて確認したいと思います。
まずは、プレイガイドが提示している利用規約です。近年はインターネットで購入することも多いと思いますが、ネット購入するには上記の大手3社すべて会員登録しないと購入できなくなっており、利用規約に同意しないと会員登録できないつくりになっていますので、必ず全員利用規約に同意していることになっています。以下では代表としてぴあの利用規約から該当する条項を抜き出しますが、残りの2社もほぼ同じ条項があります。(条文は2014年4月時点のものです)
これを読むと、確かに営利目的の転売は禁止とされています。定価以下で売るのも営利なのかという問題がありますが、営利目的でなくても3社すべてネットオークションに出すことも禁止となっているため、譲渡できるのは「身近な人間でチケットがほしい人がいる場合」という非常に限られたケースのみとなります。
また、イープラスには「各種メディアを用いて不特定多数に向けて転売」する行為も営利とみなすとあり、「各種メディア」の定義がないためどうとでも解釈できることから、mixiやTwitterなどのSNSでの転売もアウトとされる恐れがあります。つまり、この後でも述べますが、もし急に行けなくなった場合、身近な人間にファンがいない人は紙クズにするしかないということです。
転売とは直接関係ありませんが、転売禁止について触れる上でどうしても外せない「返品禁止」規定についてもここで確認しておきます。これによって返品も不可ということになるわけです。なお、条文は例によってぴあだけですが、他の二社も当然ながら同様の規定があります。
次に、チケットそのものに記載された「注意事項」についてです。これはプレイガイドの利用規約を要約したものではなく、最初にも書いたとおり、主催者からの注意事項という形式になっています。
確かに、こちらにも営利目的での転売は禁止となっています。まあこれは主催者から注意事項という形式であり、契約として成立するかどうかは疑問ですが、いちおう転売禁止の条件がある、ということを明記しているという点は事実として認められます。
よって、ネット上でプレイガイドの利用規約に同意してチケットを買っている以上は、営利目的の転売、ネットオークションへの出品は契約違反となり禁止されているということになり、その違反に対するペナルティとして転売されたチケットは無効になる可能性があるということが「少なくとも今の契約上は」言えるでしょう。
ただし、この規約の条項についても個人的にはおかしいというか、違法なのではないかと考えています。これについては長くなるので別ページで書いていますので、よろしければそちらもご覧ください。
さて、以上の条例・契約による規制について、一般的に言われていることとあわせてまとめると以下のようになります。なお、定価以下とは、定価での転売を含みます。また、法的にグレーとしているのは、ネット上が公共の場所かどうかの判断に関する裁判例がまだないためです。
転売場所 | 金額 | 条例 | 契約 |
---|---|---|---|
会場現地 | 定価越え | 違法 | 違反 |
定価以下 | 違法 | 問題なし | |
金券ショップ | 定価越え | 問題なし | 違反 |
定価以下 | 問題なし | 問題なし | |
オークション | 定価越え | グレー | 違反 |
定価以下 | グレー | 違反 | |
SNS | 定価越え | グレー | 違反 |
定価以下 | グレー | e+のみ違反 |
次に、実態として、事業者側はどうやって転売を防いでいるかというのを見ていきます。
転売禁止規定が、都道府県条例との兼ね合いで事業者としての建前上書かざるを得ないから書いているのであり、実際には黙認しているならばそれはそれでいいのですが、そういうわけではありません。契約は法律と違い、違反しても警察は動いてくれませんので、違反されないよう自分達で対策をとらねばなりません。具体的にどんな対策をとっているのか、最近実際に行われている対策をざっとあげてみます。
コブクロが採用していることで有名ですが、チケットを購入するにはEMTGという会員制のチケット販売サイトに登録してIDカードを入手し、入場時にチケットとIDを照らし合わせないと会場に入れないという仕組みです。IDカードは個人に紐付いていますので、譲渡、貸与は現実的に不可能であり、つまり転売はできないというしくみです。プレイガイドでの一般発売分は転売可能ですが、良席はEMTG販売分で押さえられてしまっていると思われ、転売効果は減少します。また、EMTGは会員同士での定価での転売ができるシステムを備えており、行けなくなった人の救済もできるようになっています。
また、2014年7月から、ぴあの公式サービスとして行けなくなったチケットのマッチングを行うという「定価リセールサービス」を実施しています。これも、「クレジットカード購入&店頭受け取りを選択しており未発券のチケットのみが対象で、複数枚購入の場合は1枚ずつのリセールは不可」というかなり限定された条件でしか使えないものの、条件に該当する人にとってはありがたいサービスと言えるでしょう(あと細かいことを言うと、ぴあが手数料10%を徴収するため、ぴあにとっては二度儲かるという点に多少釈然としないところはありますが)。
個人的には、いずれの方式も、価格が需給バランスを反映しないとか、ぴあのように条件が厳しくて使えないケースが多いといった不満はありますが、方向性自体は大筋は良いと思っています。
チケットは大まかな席種(入場口など)しか示さず、当日の入場時に指定席券と引き換える方式です。B'zが採用しています。また、アリーナ前方などの一部の良席は個人情報を事前登録して入場時に照合するという、次に述べる本人確認方式も併用しています。
これは、チケットの転売そのものは可能ですが、座席が不明なので事前の転売がしにくくなるという間接的効果を狙ったものといえます。ただ、B'zのようにチケットが即日完売するようなアーティストだと、とにかく入れればどこでもいい、という人もたくさんいます。そういう人には正確な席が分からなくてもあまり関係ないので、そういう人たちにとっては転売対策にはなっていません。
AKB48やももいろクローバーZなどのアイドルが最近よく行っている方法です。入場前に、購入時に申請した個人情報と照合できる身分証を提示し、認証されないと入場できないという仕組みです。
この方式だと、営利目的の転売を防止するには有効ですが、これならチケットにする理由がありません。そこまで購入者個人にしか入場する権利を与えたくないなら、個人情報の提示だけで良いはずです。
また、AKB48などのようなスタジアムクラスのライブで本人確認をするには膨大な人件費がかかりますし、正規にチケットを買ったのに身分証を忘れて入場できない人が出る反面、当然ながらスタジアムのような巨大な会場で全員の身分証を完璧にチェックすることなどできないので、オークション等で購入しても運よくすり抜けられる人が出てきます。コストもかかるし、公平性の点でも疑問が残る、問題の大きいやり方だと思います。
また、マキシマム ザ ホルモンも以前から全員の本人確認を行っていましたが、彼らの場合は会場規模が小さい(せいぜい2000人規模のライブハウス)ためにほぼ確実に本人確認が行われており、転売対策としてはほぼ有効に機能していると言えるでしょう。
ただ、いずれの場合も、身分証ごと借り受けるなどの方法で本人確認を通過できれば、転売は可能ということになります。
なお、ももクロはさらに進み、2014年から顔認証による本人認証を行うことで身分証貸し出しを伴う転売もできないようになっています。ただし購入者本人の顔しか登録できないことから、同行者は事実上フリーパスとなり、その枠での転売は可能となっているようです。しかしこれもいずれは対策(購入枚数を1人1枚にすれば済む話)されるでしょうから、転売はより困難になっていくと思われます。
ただし、このように事前の手続きを経ないとチケットが買えないという仕組み(ジャニーズもFC会員にならないと買えないので同様)では、ライブに行くための障壁が高いためにライトなファンは必然的に排除されます。面倒な手続きを気にしないほどの熱狂的なファンに限定しても十分運営できるだけの人気アーティストでないと成立しないため、ジャニーズのようにファンの確保がほぼ確実(個々のグループでは人気が落ちても、ジャニーズ全体で見れば常に一定の集客はある)であると確信できる状態になっていないと、いざ人気が落ちたとき動員が一気に急落する羽目にもなりかねません。
事前にネットで転売されたことが確認されたチケットは座席を無効にし、来た人にもそこに座らせないというものです。Twitterなどでも話題になりましたので、知っている人も多いと思います。矢沢永吉や、声優やアニソン系のライブで行われているようです。また、上で参考にした情報によると、ももクロの日産スタジアムライブでもこれをやっていた形跡があります。
この方式は、本来は主催者として(会場でプレイガイドが客の追い出しをしているとは思えないので、主催者と仮定します)ペナルティを課したいのは転売者のはずであるのに、購入者にペナルティを課すという筋違いの手段だと思います。
間接的に転売をしにくくするためなのでしょうが、転売者への返金要求などは購入者が自身で行わなければならず、購入者に過大な負担を強いることになります。
この方式は、他の方式と比べても著しくタチが悪く、非常に問題が多いと考えています。なぜなら、主催者は転売行為を確認した時点で出品者に連絡する等の手段がとれたはずだからです。その時点で転売をやめさせれば、購入者が現地まで来ておきながら観覧できないという事態も起こりえず、購入者が事後に転売者にクレームする必要もありません。転売者が契約違反でチケットを無効にされるだけで終わっていたはずなのです。
しかし、この主催者のやり方は、あえて転売行為を放置して被害者を作り出しており、限度を超えたやり方だと考えます。なぜわざわざそんなことをするのか、企業としての姿勢を疑います。現地での見せしめを狙っているとしか思えませんが、このような罠を仕掛けるような真似をしても誰も得せず、運よく正規で買えた人が溜飲を下げる効果しか見込めません。しかも転売者はこのトラップを回避しようと思えば、座席を特定できないようにして出品するなどいくらでも手の打ちようがあるのであり、根本的対策にもなっていません。
もともと転売できないように考えられている前三者と違い、この方式が恐ろしいのは、転売チケットだとみなされた場合、ライヴ会場から一方的に追い出される場合があるということです。極端な話、転売チケットだと決めつければ、誰でも追い出すことが可能です。これで追い出されてしまった場合、その場で反論してもどうしようもありません。ライヴは時間が限られていますので、押し問答をしているうちにライヴが終わってしまえば何にもなりません。
後で争うとしても、まず訴える相手が主催者なのかプレイガイドなのか判断が難しいです。私たちが販売契約に基づいて契約した相手はプレイガイドですが、現場で追い出しているのは主催者だと考えられるからです。当事者が買い手含めて3者いますので、法律関係を明確にしないことには話が進まず、まずそこでハードルが高くなっています。
単純に会場から追い出したのは主催者だからということで主催者を訴えたとしても、損害賠償ではせいぜいチケット代金までしか取れない(契約関係がないので対プレイガイドの場合と違い損害賠償額の上限がないため、実損害が証明できればもっと取れる可能性もなくはないですが、現実には無理でしょう)ですし、慰謝料がどれだけ取れるかもわかりません。そういったもろもろのハードルを考えると、現実には泣き寝入りです。
これらのやり方を見ていると、正直なところ、「なんでそこまで転売を嫌うのか?」という疑問が湧いてきます。@やAはまだいいとしても、Bの仕組みではプレイガイドの規約上は一応禁じられていないはずの友達への譲渡もできませんし、Cに至ってはもはや弾圧的とさえ言えます。転売禁止規定はダフ屋(ヤクザ)排除という建前なのかもしれませんが、私にはこんなことをしている企業のほうがよっぽどヤクザまがいだと思います。
この後、私が転売に賛成する理由を挙げますが、それ以前に、このようなやり方がまともな企業のやることだろうか、と思います。
私が転売を認めるべきと考える理由は大きく3つあります。以下それぞれについて説明します。
主に「処分目的の転売」をできるようにすべきという意図です。たぶん、これについては理解いただきやすいと思います。
最初に書いたとおり、チケットは公演中止などにならない限り、キャンセルできないという規定がどのプレイガイドにもあります。
転売禁止も返品禁止も、それぞれ個別に見ればそういう契約条件があってもいいかもしれません。しかし、この2つをセットにしているチケット販売システムから読み取れる意思は、「チケットは公演の何カ月も前に売るから、公演日の予定は必ず空けておけ。もし都合が悪くなったら諦めろ」ということであり、あまりにも酷すぎると感じます。これによる消費者が被る不利益は看過できないものであり、いくら契約自由の原則があると言っても、これは横暴すぎる規定だと思われます。
事業者としては、返品を極力避けたいという気持ちはわかりますので、返品できないことについて文句を言うつもりはありません。どちらを解禁するのが自然かといえば、転売のほうでしょう。事業者としては収益を確保するのが最優先であり、買った人と実際に来る人が違っても収益には関係ないからです。ましてや本やCDと違い、中古販売によって新品販売が圧迫されるという問題もありません(とにかく売れてさえしまえば、実際に人が来ようが来まいが関係ない、と考えている事業者にとっては問題になりますが、客が来なくてもいいからチケットだけ売れればいいとは普通考えませんよね?)。
また、一般的に見ても、返品できない商品というのは時々ありますので、まあわかります。しかし、譲渡できない商品というのは、飛行機のチケットのように治安上の要請から買い手以外が使うことを認めるべきでないものくらいしか見たことがありませんが、ライブのチケットに個人の資質は関係ないはずです。また、飛行機のチケットはキャンセルできますので、譲渡できなくとも問題はありません。
よって、商品の性質から考えても、返品を禁じるのはやむを得ないとしても、消費者が自由に処分する権利くらい認めるべきである、というのが私の意見です。
「営利目的の転売」も、何か問題があって禁止させるというならともかく、そうでないなら禁止する必要はないはずだという意図です。おそらくこの点については賛否両論あると思います。「処分目的の転売」は救済の側面がありますが、「営利目的の転売」をする人は完全に金儲けしようとしているわけで、これに納得できないという人もいるでしょう。
しかし、よく考えてみてください。チケット転売で金儲けをされると、何か困ることがあるのでしょうか。事業者として禁止しているということは何か事業者にとって困ることがあるのだろうと思うのですが、どう考えてもそのようなことはなさそうなのです。
転売されるということは、少なくとも最初にプレイガイドから定価で買った人間がいるはずです。したがって事業者サイドには定価分の収入はあるわけで、事業者は何も困らず、売った後の流通まで禁止する理由はまったくないはずなのです。
もしコンプライアンスを気にしているならば、条例と同じ「ダフ屋行為は禁止」という規定だけでよいはずです。それを超えて営利目的の転売を禁止する合理的な理由については全く説明がされておらず、消費者の利益を不当に侵害していると言ってもよいと思います。
また、転売を認めることは事業者に不利益がないというだけでなく、他の人にとっても良いことしかないと考えます。
具体的に言うと、単純に行けなくなった人にとっては前項のとおりですが、営利目的の人にとっては高く売れれば嬉しいでしょう。その場合、買う側の人は、一般で取れなかったチケットを買うことができるわけです。高騰しているようなチケットならば一般発売で買えたのは運が良かった一部の人だけのはずで、それをお金で解決できるならそれに越したことはないと思います。むしろ、運はいくら頑張ってもどうにもなりませんが、お金なら頑張って働けば手に入れることができるという点では、こちらのほうがよほど公平だと思います。
このように、結局営利目的の転売であっても売り手にとっても買い手にとっても良い結果しかありませんので、私は転売はできるようにしておくべきだと考えます。
一応誤解のないように補足すると、「転売せよ」と言っているのではなく、「転売を禁止するな」と言いたいのです。転売したい人はやればいいし、したくない人はしなければいいと思います。合理的な理由も示さないまま転売を強制的に禁じることに対しては断固反対です。
営利目的の転売が発生するということは、定価以上で確実に売れるという見込みがあるからです。だとしたら、なぜ定価をもっと高くしないのでしょうか。10万円の価値があるものをわざわざ激安価格の1万円で売っておいて、10万円で売ることは許さん、などという主張はまったく受け入れられません。むしろ、デパートの初売りじゃあるまいし、本来10万円で売れるものを1万円で売ってしまうことのほうが理解に苦しみます。
別に、10万円で売らずに自分で使うのは全然構いませんし、そもそもそれが本来の用途です。しかし、9万円も儲かるなら売ってしまおう、と考える人がいたっておかしくないはずで、その考え方のどこが悪いのでしょうか。儲けるのが悪いという発想など現代社会に適合しない考え方ですし、そもそも事業者は利益を乗せて売っているわけですから、すでにここで儲けが生じています。そこに個人が加わったとたんに悪いとされる理由などないと思います。
また、定価を上げずに高騰を防ぐことだってできるはずです。別にむずかしいことではなく、大きな会場を選ぶとか公演回数を増やすとかして、要はキャパを増やせばいいだけです。それをしないでおいて転売禁止だのと言われても、そもそもお前が悪いだろ、という感想しか出てきません。
これを図で示すと下のようになります。キャパが増えずに転売ヤーが減ったところで、「チケットが取れた人」は下図の程度しか増えません。
転売ヤーの面積に根拠があるわけではありませんが、ヤフオクに出回るチケットを見ていると、多くても全体の1〜2割というのが肌感覚なので、このくらいの割合で感覚的には合っていると思います。
ですが、キャパが増えれば、取れる人は下の図のように増えます。
どちらがファンのためになるかは一目瞭然ですよね。しかもこうすれば取れなかった人が少なくなるため、チケットの値段が吊り上らず、転売ヤーは採算がとれなくなって自然と撤退していくでしょう。なぜキャパを増やす方向に進めず、(取れなかった人も含めた)客層全体の数%に過ぎない転売ヤーを、コストをかけて必死で撲滅しようとするのでしょうか。現状のやり方はどう考えても不幸になる人が増えるだけです。
結局のところ、転売が発生する原因はそもそもイベント企画上のミス(値段設定、会場設定等)にあり、転売禁止ルールはその尻拭いを消費者に押し付けているだけです。このようなルールは許されるべきではなく、早急に撤廃すべきであると考えます。
なお「チケット代を上げるとJASRACに支払う使用料が上がるから上げられない」という話がありますが、それはJASRACと交渉すべき話で、顧客に負担を負わせる理由にはなりません。
もちろん、チケットの転売はやはり反対という人もいます(というか、主催者サイド含めてそちらのほうが多いですよね)。しかし、それらの人の言い分は私にとってはどうにも納得できません。
以下、転売は禁止されるべきという立場からよく言われている意見について、私の考えを書きます。
事業者目線でなくファン目線で見たときに「転売ヤーのせいで私たちがチケットを買えない!」という意見はよく見かけます。その気持ちも、まあ分からなくはありません。
しかし、転売ヤーが買ったチケットは最終的にファンの手元に回ってくるわけですので、「チケットを定価で買えない」というだけの話です。決して買えなくなるわけではありません。それに転売ヤーも買い値を割るかもしれないというリスクを背負ってやっているのであり、転売ヤーが状況を読み間違えればそのおかげでファンが安く買えるという状況も起こりえますので、「高くて買えない」という指摘は必ずしも成立しません。
というか、需給バランスを正しく反映した価格になるだけなので、定価以上の価格を払っても行く価値があると思うなら買えばいいし、逆に定価では高いけれどもっと安ければ買いたいと思うなら値崩れを待ってから買うというだけの話です。
そもそもモノを安く仕入れて高く売るという行為自体は一般的に行われています。2.3のところでも述べた通り、その行為自体は何ら非難されるべきものではありません。チケットだけがこれを非難される理由など存在しないと考えます。非難する人間が、商行為はすべて悪であるという主義主張の持ち主ならば理解できますが、そうでないならばなぜチケットだけ特別扱いなのか説明していただきたいです。
「アーティスト側にお金が行かない(途中で第三者に抜かれる)のがイヤだ」という人もいますが、中間業者が入っている時点でお金は抜かれています。プロモーターやプレイガイドがマージンを取るのはよくて、取りにくいチケットを代わりに取ってくれた人がマージンを取るのはダメという理由は私には思い当たりません。
非常に単純な話だと思いますが、アーティストと我々観客の間には普通はプロモーターやプレイガイドが介在しているところ、入手自体が困難なプラチナチケットの場合はそれらに加えて「代わりに取ってくれた人」がもう一人介在しているというだけだと思います。
並行輸入業者のように国内で入手しにくい商品を入手できるルートを用意してくれている人に手数料的なお金を上乗せして払うということはごく普通に行われていることです。それが入手しにくいものであればあるほど手数料が高いということはまったく合理的であり、それでも欲しいと思えば私は喜んでお金を払います。
まず、「不正な方法」とは何でしょうか。例えば普通の人が地道にサイトにアクセスしているところ、プログラムで機械的にチケットを取っていたとしても、そのためにプログラムを開発して(あるいは購入して)やっているのですから、システムの制限の中で努力しているだけであり、不正でもなんでもないと思います。
また、そのようなプログラムなどサーバを運営している事業者からすれば容易に弾けるはず(怪しいアクセスのブロックがそんなに難しいことだとは思えないです)なのですが、なぜその時点で対策を打たず、とりあえず売っておいてからあの手この手で転売を止めようとするのか理解できません。
主催者からチケットの横流しを受けているとか、予約プログラムのバグをついてすべての席を一気に確保しているとかいうなら確かに不正ですが、そんなわけはないですよね。
こういうたとえ話もよく聞きますが、本質を外してしまっているので適切なたとえになっていません。万引きは明らかに他人の財産権を侵害する行為で、どう考えても違法ですが、そもそも転売は誰の権利も侵害していないし違法でもないので、理由もなく契約で禁止すること自体に合理性がないと考えています。
なお、転売行為はすべて違法だと勘違いしている人もいますが、金券ショップという存在が堂々と営業できていることからも明らかなとおり、単に転売するだけなら違法でもなんでもありません。いわゆる「ダフ屋行為」は違法とされていますが、これは最初にも書いたとおり各都道府県の迷惑防止条例など(該当する条例がない県もありますが)で禁じられているもので、基本的に会場前でうろついているダフ屋の行為を迷惑行為として禁じたものであって、転売行為自体を禁じたものではないということは知っておくべきです。
なお、たいていこのような条例には転売目的での購入も禁止されています(ときどきこちらに該当するとして逮捕されている人も出ています)が、転売目的の購入であると断定できるほど大規模に活動している場合はともかく、そうでない場合はまったく問題ありません。
これはもう検証する術がないので、「あなたはそう思うのですね。しかし私はそう思いません」としか言いようがありません。
しかし、チケットの二次流通業者が海外も国内もある程度存在できているという事実から考えても、それによって助かっている音楽ファンもいるわけですので、転売行為が蔓延するとファンが離れる、という指摘はいささか疑問です。
ちなみに、転売禁止派は「そもそもそんな奴らはファンじゃない」と言ってくることもありますが、これは単なる感情的な意見であってなんの説得力もないことは言うまでもないと思います。このような意見をべースに議論しようとしても、「そんな前時代的な考え方から離れられない奴らばかりでは音楽業界の未来はない」という、やはり同じように全く根拠のない推測しか言いようがなく、ただのケンカになってしまいますのであまり意味がありません。
いろいろ書きましたが、反対派の意見は今のところ納得できるものは聞いたことがなく、やはり転売はできるべきである、というのが現時点での私の意見です。
さてここまで現状の問題点に対する批判という形でいろいろ述べてきましたが、そもそもチケット販売とはどうあるべきなのか、ということについて私の考えを書きます。
私は、コンサートのチケット、特に高騰するようなプラチナチケットは、商品価値が高いだけでなく入手すること自体が困難であるという意味で、非常に特殊な性質を持つ商品であると考えています。ですので、そのようなチケットを入手するのに必要な要素は「お金」と「運」の両方があっていい、と考えています。そう思わない人もいるでしょうけど、これはもう価値観の違いだと思います。
そういう考え方に基づき、(少なくとも現状の仕組みである以上は)チケットは転売できるのが望ましい姿であると考えています。転売できるようにすれば返品できない問題も一挙に解決できるので、そうなれば「運」で取れる人も「お金」で取れる人も両方が存在できるようになるわけで、それで十分なのではないかと考えます。
そうは言っても転売が普通になされている状態がどうしても許容できないとすると、プレイガイドや主催者から発売されるチケットのみでお客が満足できるような状況になれば必然的に転売はなくなるはずです。
転売された後でモグラたたきのように潰していくという非効率な方法はどう考えても賢い方法ではないので、根本的な対策が必要だと考えます。具体的には以下の2点です。
@ 行けなくなった人を救済するため、返品を認めること。
A 需要と供給のアンバランスを解消するため、価格を上げるかキャパ(会場、回数)を増やすこと。
きわめてシンプルな話ですが、この両方ができれば転売がほとんどなくなるはずです。海賊行為を止めさせる最もよい方法は、海賊行為が不要になる正規のサービスを提供することなのです。
とはいえ、そのようなことは誰でもわかるはずで、それでもそれができないということは、何か理由があるのでしょう(その理由ははっきりしていませんが)。だとすると、システムを変えずに転売をなくすためには、チケットの入手に「運」が絡む部分を極力排除していけば必然的に転売がなくなる(転売で利ザヤを稼ぐことができなくなる)と考えます。
そもそも、「お金」か「運」のどちらが客観的にみて公平な基準かといえば、「お金」のほうがより公平であると思います。運は努力ではどうにもなりませんが、お金は(少なくとも運よりは)努力によって手に入れることができるからです。お金が足りなくて買えなかった、なら諦めもつきますが、一生懸命働いてお金を貯めたのに運が悪かったね残念でした、では私は納得できません。
ところが、現行のチケット販売方式は「運」しか問われないやり方なわけです。現行制度のまま転売は絶対禁止だという人はチケット獲得の要素は「運」のみであるべきだという考え方であろうと思いますが、私はそのような考え方には同意できません。
そんなふうに転売問題を考えてみますと、結局のところ、「運」の要素が残っている限りは、購入価格と市場価格に開きが生じるのはどうしようもないので転売はなくなりませんし、またなくすべきではありません。
(繰り返しますが現状の仕組みの中で)転売をやめさせたいというならば、最初からチケット獲得の方法を「お金」要素に倒すことで転売ビジネスを自然淘汰できるはずだと思いますので、それにはどうすればよいかということを考えてみます。
以下に述べる方式ではどれも運の要素がほぼ完全に排され、チケット入手の成否はお金のみで決まってしまいますが、前述のとおり「運」より「お金」のほうがまだ公平であると考えていますので、少なくとも今のやり方よりはよっぽどマシだと思っています。
さて、その場合私が最も良いと思う方法は、プレイガイドが全席オークションに出品することです。こうすれば、値段は市場原理で適正価格に決まります。最前ど真ん中が10万円になったとしても、それを出してもいいと思う人がいるのだからそれでいいのです。現状は10万円の価値があるチケットを6千円とか7千円などという超廉売をしているから、それを10万円で転売しようとする人が出るのです。
こうすることで、転売屋が差額で儲けることができなくなります。10万円で買って転売しようとしても、10万円にしかなりませんから転売屋は手を出すはずがありません。買い手はどっちにしても10万円出すのですから、全額が主催者側つまりアーティスト側に流れるので、転売屋に利益を吸われるよりよっぽど嬉しいはずですし、主催者側も高く売れるにこしたことはありませんので、現行システムに比べてみんなが得をする結果になります。
そして、万一行けなくなった場合には買い手自らそのオークションに出品すればいいのです。もう一度10万円で売れるという保証はありませんが、その前後の価格にはなるでしょうから、紙クズになるリスクはありません。また再出品による救済が可能ならば返品を認めなくても問題にはならず、プレイガイドも返品リスクを抱え込む心配はありません。
私がこの方法を一番に推すのは、営利目的の転売と処分目的の転売の両方を一気に解決できるからです。
次の案としては、今のようなアリーナもスタンドも一律の価格設定をやめ、実際の価値にあった席種に細分化することです。たとえば東京ドームであれば、大雑把に考えても「アリーナA>アリーナB>アリーナC>アリーナD>1階スタンド前半分>アリーナE・F>バルコニー≒2階スタンド前半分>1階スタンド後ろ半分>2階スタンド後ろ半分」くらいの区分は必要です。こうすればもともとの値段が適正ですので、転売は成立しにくくなるでしょう。
ただしこのやり方では、定価設定を見誤れば営利目的の転売が発生します。たとえばアリーナAを5万円に設定しても、10万円出してでも最前で観たいと言う人がいれば、5万で買って10万で転売する人は出てくる可能性はあります。それでも現行のやり方よりはましだと思います。
全体的に見れば、この方式であれば営利目的の転売は大幅に減るでしょうから、行けなくなった人の救済のため、転売は解禁してよいはずです。それでも禁止したいなら最低限返品は認めるべきです。
第三の案として、たとえば一律5万円なら5万円と設定して先着順に席を選ばせて売っていき、1日ごとに1,000円ずつ安くするという方法も考えられます(もちろん最後に0円にする必要はなく、これ以下では売りたくないというラインがあるならばその金額で止めればいいのです)。第1の案の逆の発想で、いわば逆オークションになります。
これならば、5万出しても前で観たいと言う人は発売初日に買いますし、いや5,000円しか出したくない、と言う人は45日経ってから買えばいいのです。早く買った人から順に席を取っていくならば、5,000円になったときにはそれ相応の席しか残っていませんが、それなら文句は出ません。いい席がほしければもっと金を出せばよかったのです。またその時にはすでに売り切れているかもしれませんが、それはそのライヴにもっと価値を見出す人がたくさんいたのですから、予算5,000円では買えなかったというただそれだけのことです。
この方法なら、もともとの値段を高く設定しておけば、その値段よりも高く売れるであろうと見込めた最前列などの一部の席しか現実的に営利目的の転売はなされないはずで、処分目的の転売しかほぼ出ないはずですから、上の方法と同様転売は自由にさせるべきです。それもだめというならやはり返品は必要です。
AKB48やももクロなどのアイドル系がやっているように、買った本人しか入れないと最初から方針を打ち出しておくのもいいでしょう。これならシステム的に転売できないのですから、ルール上で転売を禁止する必要はないわけです。
そもそもこの方式ならばチケットなどいらないですよね。ファンクラブ会員にしか売り出さず、入場時は会員証+身分証などでチェックすればいいだけです。コストはかかるだろうなと思いますが、こういう方式をとってそれが成立するということは主催者もファンもそれを望んでいるということですから、その分の費用をチケットに上乗せして売れば別に誰も怒りません。
なお、もしチケットレスシステムを一アーティストだけでやると上記のようなことになりますが、ある程度規模が大きければ(事務所単位とか、もっと言えばプレイガイド単位)共通ICカードのようなものを作ることでコストは分散されると思います。Suicaのように入場時にタッチさせれば紙発券のコストももぎりの人件費も削減できるので、トータルで見れば実は意外と安いかもしれません。
また、ICカードに強制的にクレカ機能を付けてしまえばカード貸与による転売も抑止できるでしょうし、一石二鳥ではないでしょうか(ただし未成年やブラックリスト入りしているような人は弾かれてしまうので、ファンの年齢層がある程度高くないと成立しないでしょうけど)。
ただ、どちらにしてもこの方式はやむを得ず行けなくなった場合まったく救済されないので、返品や友人への譲渡は認めるような制度にすべきであろうと思います。
なお、いくつか案を出しましたが、これらはすべて定価より高騰するようなプラチナチケットを想定した案ですので、そもそも転売されないような売れないチケットは現行の定価販売方式のままでいいと思います。
チケット転売をどうしてもするなというのであれば、上記のようなシステム改善策をぜひとも採用していただきたいと思います。それができないならば、転売は認めるべきです。
事業者が損益を考えて売価を決めるのはいいのですが、その先の流通まで制限するという現行制度はどう考えてもおかしいと思います。事業者自身が転売をやめさせたいと考えるならば、転売しなくてもいいように仕組みを改善していくのが建設的なやり方でしょう。改善努力をせずに消費者に不利益を押し付けるような今のやり方は、企業の姿勢として疑問視せざるをえません。
さらに、そのような事業者側の態度に何の疑問も持たず、転売は悪だからとにかくやめろと声高に叫ぶファンにも個人的には違和感を覚えています。どうしても転売がイヤだという人は、転売している人を責めるのではなく、転売できるやり方で売っている事業者にやり方を変えるよう要望していくべきだと考えます。
【履歴】※ なお、表現の微修正レベルの改版は割愛しています。