微修正:2015/2/27 第1版:2014/4/30
コンサート等のチケットが返品できないうえに譲渡(転売)もできないことについては、当サイトでは以前から反対の立場をとってきていますが、そもそもそういうルールって違法なんじゃないの?という気がしてきたので、それについて考えてみたいと思います。
なお、法律の話は別としてそもそも転売はできるべきだ、という意見については下記ページで書いていますので、よろしければこちらも合わせてご覧ください。
いちおう以下の文章は自分なりにネットなどで調べた結果をまとめたものですが、私は法律の専門家ではないので、解釈などに誤りがあるかもしれません。もしおかしい点があったらTwitterでご指摘いただけるとありがたいです。
チケットは転売ができない(かつ返品もできない)と言っていますが、もちろんそんな法律があるわけではない(ダフ屋行為はいちおう条例で禁止されていますが)です。これを決めているのはプレイガイド(チケットぴあ等)の利用規約です。
現在、一般の人がチケットを買う場合は、チケットぴあ、ローチケ、イープラスの三社のどれかから買うのがほとんどだと思いますので、これらの各社の利用規約から該当する部分を抜粋してみます。これらの文章は抜粋時点(2014年4月)時点のものですので、最新版は各社のサイトでご確認ください。
以上のように、三社とも返品も転売も不可となっています。で、これのどこが違法なの?という話ですが、まず原則をいうと、契約というのはどんな内容であっても両者が同意しさえすれば原則として自由です。これを「契約自由の原則」といい、法律の世界では当然のこととされています(民法91条)。
しかし、「原則として」というからには当然例外もあって、本当にどんな契約でも有効となってはいろいろ問題がありますので、ダメなものもあります。よくあげられる例ですが「人を殺すことを約束した契約は無効」というようなことです。「公序良俗に反する契約は無効」と書かれた民法90条がこれを表していますが、これだけでは具体的にどんな契約が無効になるのかよくわからないので、さらにいろんな法律で「こういう契約は無効」という例外を細かく定めています。
そこで、私としては、返品できないのはともかく、転売ができないというのは、そういう「無効」だとされる内容に該当するんじゃないですか、と言いたいわけです。法律で「無効」だと決められていることを利用規約に書いてもダメ(違法)だということです。そこで、以下ではその可能性を考えていきたいと思います。
では、さっそく問題点を考えていきたいと思います。最初は「消費者契約法10条」の問題です。
消費者契約法は、さっき書いた「契約自由の原則」の例外の典型的なものだと思います。消費者契約法を管轄する消費者庁では、「消費者契約法」はなぜ、できたの?」というパンフレットの中で、『消費者と事業者との間には情報の質や量、交渉力に大きな差があり、そのために契約トラブルが増え続けています。力の差のある者が対等に取引するためには、その差を埋めるルールが必要です。』と説明しています。
チケットの利用規約などまさにその説明にぴったりですので、私たち消費者としては、利用規約が消費者契約法に違反していないかどうかを考えてみることは重要だと思います。
さて、消費者契約法では、事業者と消費者との契約(消費者契約)で、
@ 民法などに比べて消費者の権利を制限or消費者の義務を加重するもので、
A 民法1条2項に反して消費者の利益を一方的に害する、
という2つの条件を満たす契約条項は無効と定められています。
このうち、返品不可の上に譲渡(転売)もできないという条件は明らかに@の消費者の権利を制限していますから、ここはどう考えても当てはまるでしょう。問題はAのほうですが、「民法1条2項」に何が書いてあるのか分からないと条文の意味が分かりません。そこでまずこれについて調べてみると、Wikibooksによれば、民法1条2項は『私権の行使及び義務の履行における信義誠実の原則について規定』しているとあります。
それって何?って感じですが、Wikipediaでは『信義誠実の原則(しんぎせいじつのげんそく)とは、当該具体的事情のもとで、相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという法原則をいう。』と説明されています。
でもやっぱりこれはしょせん基本原則であり、具体的にどういうときに該当するのかは実際の裁判でどう考えられているかを見てみないとわからないので、次に裁判所の考えを調べてみます。
やはりここでは、消費者契約法10条に該当するかどうかが争われた事件での判断を調べるのが一番近いと思います。この問題で一番多いのは、アパート等の敷金や更新料が消費者契約法に違反しているのではないか、という争いのようです。その判例を読んでみると、消費者契約法10条のA番目の条件に該当するかどうかは、次の3つを総合的に考えて決める、ということらしいです。
@ その条項の性質
A 契約が成立するに至った経緯
B 消費者と事業者との間の情報の質や量、交渉力の格差、その他諸般の事情
とすると、転売(&返品)禁止がこの条件に当てはまれば無効である可能性が非常に高くなりますので、該当するかどうか考えてみたいと思います。
まず最初に@つ目の判断基準、「その条項の性質」についてです。「性質」ってどんな性質だかよく分かりませんが、裁判所はこれについてはまず対象となっているお金の趣旨を検討し、それに関する取り決めに合理性があるかどうかということを見ているようです。
とすると、チケット料金の性質はライブを観ることに対する対価以外の何ものでもありません。そして、チケット業者は、そのチケットを買った「誰か」にライブを観せるためにチケット料金を受け取ったのであり、「誰か」が誰であるかはもともと関知していません。すなわち、チケットを最初に買った人からチケット業者は収入が得られているわけですから、それを転売されたところでチケット業者側に何か不利益が発生するとは思えません。そうすると、このような規制をかける合理性はないと思われます。
したがって、「当該条項の性質」上、転売を禁ずるような条件の必然性は認められないと言うべきでしょう。
次に、Aつ目の「契約が成立するに至った経緯」についてですが、さっきの判決文を読んでも経緯について具体的に検討した形跡が見当たりません。この事件では、契約は問題なく成立していると考えられていたようです。
ですので自分で考えるしかありませんが、Webでチケットを買っていれば「規約に同意」的なボタンを押しているので、経緯についてはとりあえず問題ないと考えます。ただ、後でも書きますが、Web購入以外の方法だと経緯に問題がある場合もあるんじゃないかと思っています。
最後に、Bつ目「消費者と事業者との間の情報の質や量、交渉力の格差、その他諸般の事情」です。情報の質と量や交渉力というのはなんとなく分かりますが、それだけでなく、とにかくそれ以外のいろんな事も全部ひっくるめます、という感じですかね。
この点については、裁判所は、そういう条項があることがよく知られていて、過去の判例でも問題ないとされてきている条件ならば、契約書にしっかり書いてあれば有効だ、と考えているようです。
この判断基準でチケットの転売禁止条項を考えてみますと、転売禁止条項があることはよく知られている、という点については同じだと言えるでしょう。しかし、転売禁止が違法かどうかということは裁判で争われた事例がないわけですから、判例うんぬんの部分は該当しませんので、片方の条件しか当てはまりません。
仮によく知られていさえすれば問題ないとしてしまうと、どんな無茶苦茶な条項であろうが、よくあることなら有効、ということになってしまいます。それでは事業者のやりたい放題であり、消費者契約法の趣旨と完全に反してしまいますから、そのようなことはありえず、両方とも該当しないとダメだと考えるべきでしょう。
この事件では、両方とも該当しているので更新料特約は有効、ということで終わってしまっているので、それ以外の基準はよく分かりません。これではチケット業者と私たち消費者との間に「情報の質や量、交渉力」に差があるのかどうかわからないので、別の判例を探してみると、「条件は最初から書いてあるんだから質や量に差はないし、不動産屋はたくさんいるんだから、他と比較して自分に不利でないところを選べばいいから、交渉力も大きな差があるとはいえない」と判断された例がありました。
とすると、チケット転売禁止については、3社すべてが同じ条件なのですから、比較検討することができません。不動産業者ならたくさんいますから(ほとんどの業者の条件が似たようなものだとしても)ある程度は選ぶことができます。しかし、チケット業者は事実上3社しかいないので、選ぶことなどできません。
これはすなわち、判例がいうところの「条項に関する情報の質及び量並びに交渉力」に差があるかどうか、という点に影響してくると思います。不動産ならば、条件交渉こそできなくても消費者には業者を選ぶことができるので、業者だけが一方的に有利とはいえない、ということだと思われますが、チケットに関してはこの点が全く違いますので、消費者側には交渉力がなく、チケット業者が一方的に有利だと言えるでしょう。よって、Bの判断基準にはひっかかると考えられます。
以上から、最高裁判所の示した3つの条件を総合的に判断すると、チケットの転売を禁ずる条項は
@ 当該条項の性質上、合理性がなく
A 契約は有効に成立しているとしても
B 消費者側には交渉力がほとんど皆無である
ことから、このような条項は「信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」と考えられ、消費者契約法10条に反し無効ではないかと思います。
また、転売禁止条項が発動するとチケットは無効とされてしまうわけですが、そのやり方にも大きな問題があると思います。
チケット業者の利用規約によれば、判断は興業主催者(ここでは「消費者ではない」ということが重要なので、判断するのが契約相手であるはずのチケット業者でない、ということは気にしません)が一方的に行うことができます。しかも、判断がなされてしまうと、それが間違いである可能性も考慮せず一方的に契約を解除することができ、事前どころか事後通知もなされないため消費者側に反論の余地が一切与えられません。
一般的には、一方的に契約を解除できる特約というのはあります。しかし、普通ならば、一方的に契約を解除されても、その判断が間違っていると思えば裁判で争って解除を撤回させたり、損害賠償を求めることが可能です。
ところが、チケットという商品の性質からすると、契約を無効とされたことを通知してもらえないのであれば、その事実を把握できるのはライブ会場現地に着いたときです。ライブが始まるまであと数時間、へたをすれば数分という時点から無効判断の是非を争うことは事実上不可能です。
とすると、実際に消費者が被る不利益を考えると、このようなやり方が許されてよいとは思えません。これは、民法90条の公序良俗に反すると言ってもよいのではないかと思います。
また、さっきも書いた通り、チケットが転売されてもチケット業者に損害は発生しないはずなので、転売されたからといってチケットを無効にする(契約を解除する)必然性がありません。それをあえて解除すると決めているのですから、契約上は一見私たち消費者側に責任があるように見えますが、そもそもそのルール自体に合理性がないので、契約解除はチケット業者側の一方的な都合によるものと言えます。
だとすると、むしろ解除による不利益は事業者側が負うべきであり、それを「チケット料金を返さない」という形で私たち消費者に負わせるのはおかしいと考えます。
そういう意味でも、この条項は公序良俗に反していると言えるのではないかと思います。
もし、消費者契約法10条および民法上はそこまでの違法性があるとはいえず転売禁止条項そのものは有効であるとしても、消費者契約法9条1項の問題はあると思います。
消費者契約法9条1項では、「契約解除に伴う損害賠償の額や違約金を決めた条項で、その契約解除に伴い事業者に発生するであろう平均的な損害額を超える部分は無効」であるとしています。
ここで、もう一度利用規約を見てみます。とりあえず代表としてぴあの規約の該当箇所を見てみると、「当社または興行主催者が自らの判断で購入済みのチケットを無効とし、チケット代金の返金を認めず、入場を認めないことがあります」と書かれています。
この条文からは、チケット業者側が契約を解除するけれども、それは消費者の契約違反によるものだから、お金は返しませんよ(だから契約違反をするな、という強制力として働かせる)、という意図が読み取れるというのは異論はないでしょう(そういう意図でなかったとしたら、なぜ返金しないのか理由がまったく分かりません)。
そうすると、上に書いた消費者契約法9条1項の条文の最初の「当該消費者契約の解除に伴う(略)違約金を定める条項」に該当すると考えられます。
この考え方が正しいかどうか、判例を探してみると「大学合格時に支払った授業料等について、入学を辞退しても返さないという規定は消費者契約法9条1項に該当する」と考えられているようです。この規定は学生が入学を辞退することを間接的に押しとどめようとする効果もあるから、という理由づけがされているので、チケット販売契約を解除してもお金を返さないという規定が転売をやめさせようとする効果を狙ったものと同じと考えられます。
だとすると、やはり転売に伴ってチケットが無効とされても返金しないという規定が消費者契約法9条1項に該当する、と考えるのは間違っていないと思います。
そうしたら次に、違約金の額について「平均的な損害を超える部分は無効」となりますので、「平均的な損害」っていくら?という話になります。
ちょっと考えてみると、主催者はチケットが売れたらライブの準備を進めるのだからそこにお金はかかっており、契約を解除したら損害が発生するから、チケット料金を返す必要はない、という見方もできそうです。しかし、普通はチケットが売り切れようと余ろうとライブは実施されるのであって(時々あまりにも売れなくてライブが中止になることもありますが、今回問題としているような個々の契約解除とは状況が違う)、初めからそのチケットが売れていなかったとしても主催者は同じだけのお金を使ってライブを行うはずです。
そうすると、そのお客との関係では何も損害が発生していないと思われますので、チケットを無効にしても「平均的な損害」は何もなく、消費者契約法9条1項に基づき全額を返さなければならないと考えられます。
この考え方は、さっきの入学金返還の事件において裁判所が「学生が入学することが確定するのは4月1日なので、それ以降に入学を辞退したなら大学はその学生のためにお金を使っちゃってるから返還しなくてよいが、3月31日までに辞退したならまだお金を使ってないはずだから損害は発生していないはず」と言っているので、これとも一致すると思います。
ここまでは規約がおかしいという話をしてきましたが、ここからは規約そのものではなく、いまのチケット販売も含めたいろんなやり方に問題があるんじゃないか、ということを挙げていきたいと思います。
チケットをWebサイトから購入すれば、規約に同意するボタンが途中で必ず出てくるので、とりあえず同意していることにはなります。しかし、チケットは電話購入という方法もあり、この場合電話口で利用規約をすべて読み上げるわけではないので、規約を事前に知るすべはありません。これでは消費者が利用規約に同意しているとは言えず、利用規約の効力が及ばないのではないでしょうか。
また、店頭(コンビニやぴあの店舗など)で直接購入した場合も規約を読んで同意する機会はありませんので、同様だと考えます。
さらに、Webで購入したとしても、即完しないチケットならともかく、発売後瞬殺されるようなチケットでは、Webでの一般発売は0.1秒を争う作業です。そんな状況で利用規約をのんびり読む人はいません。利用規約を読んでいる余裕など絶対にない方法でチケットを売っておきながら、「規約に合意してますよね」という言い分はとても通らないのではないでしょうか。
なお、「自発的にネットを調べれば見れる」とかいうのはなしです。個々の取引の過程で条件が示されなければ、その取引において同意を取ったとは言えないと思いますので。
あと、チケットに「営利目的の転売禁止」と書いてあるというのもなしです。チケット券面は購入後でないと見れないからです。後出しの条件でも有効になるとされてはたまりません。
詳しくはチケット転売肯定論のほうに書いてありますが、オークションなどで転売されたチケットをチケット業者側がマークし、現地でその席に来た人を追い出す、という行為が一部で行われています。しかしこれも違法じゃないかと思います。
なぜかといいますと、まずチケットとは何かという話から始めますが、これはライブを見るという権利を紙に表したものであると言えます。これに異論がある人はいないと思います。そうすると、チケットを買うとはどういうことかというと、私たち消費者は「ライブを観る」という債権を買ったとも言えるでしょう。
となると、チケット転売を禁止するということは、法律上「債権譲渡の禁止」を定めたルールであるということになります。そうなると、民法では「債権譲渡禁止の特約は、そのことを知らなかった人に対しては主張できない」というルールがありますので、これが適用されることになります。
つまり、チケットを買った人が転売禁止について知らなければ、チケット業者は「そのチケットは譲渡禁止だから、あんたは入れません」と買った人に対して主張できないはずで、買った人を現地で追い出すことはできないはずなのです。
これについては「買った人は本当に知らなかったのか」ということが問題になるでしょう。少なくともチケットの券面に「転売チケットは無効」と書いてあれば、全然知らなかったとは言いにくいです。しかし、問題はそれをいつ知ったか、ということです。この点について、裁判所は「債権の譲渡を受けたとき」と考えているようですので、チケットを買った後で「転売チケットは無効」だと知ったとしても関係ありません。買おうとしているチケットが譲渡禁止特約付きのものだと最初から知っていたなら別ですが、チケットを受け取って初めて券面の記載に気づいたのであれば、全く問題ないでしょう。
しかし、実際には、事前に譲渡禁止について知っていたかどうかなど一切考慮せず、転売された(と思われる)チケットを持ってきた人を一方的に追い出しているのですから、本来なら転売禁止を主張できないはずの人まで追い出している可能性が高いです。そうだとすると、そういう人を追い出しているチケット業者の行為は、違法の疑いを免れないと考えます。
ここで、「チケット転売禁止は、転売したチケットを無効にする、と言っているのであって、転売行為を無効にするとは言っていないから、債権譲渡を禁じたものではない」という反論が考えられますが、事実上は同じことですので、そのような言い分は単なる脱法行為であると思います。
また、仮にそうであったとしても、チケット券面には「営利目的の転売禁止」のような言葉しか書かれていないので、一般的に見て「債権譲渡禁止」を定めたものであると理解されてもやむを得ないでしょう。これはそのような記載をしたチケット業者の責任なので、「実際は債権譲渡禁止ではない」という言い分は認められないと考えます。
さらに、債権譲渡を禁じたものではなく、契約通りにチケットを無効にしただけだ、という主張を認めるならば、チケットの有効・無効はチケット業者とそれを買った人との間の取り決めにすぎませんので、買った人から転売された第三者には何も関係ありません。転売行為自体が何かの法律に反して無効であるならば良いのですが、そのような法律はないので、契約当事者でない第三者に対してチケットの無効を主張して追い出すことは法律上なんの根拠もなく、不可能であると考えます。
以上、いろいろと書きましたが、今のチケット業者のやり方は規約にもそれ以外のことにも法的な問題が多いと思いますので、はやく転売禁止条項は削除してほしいと思います。この条項さえなくなれば、ここに書いたことは、規約そのものの有効性に関すること以外は問題でなくなりますので。
【履歴】 ※ なお、表現の微修正レベルの改版は割愛しています。