こんにちわ。中の人@livehisです。
例の「チケトレ」がプレオープンになりました。
「公式」と銘打っている以外は他のチケット売買サイトと仕組み的には変わらないようですが、定価販売のみしかできない仕様のようです。まあ経緯を考えればそりゃそうなんですけど、これで需要があるのかはなはだ疑問です。
それよりも、チケット売買サイトそのものを立ち上げたことで、他の売買サイトも必然的に問題ないことになってしまう、ということをチケットストリート社長の西山さんがTwitterで指摘されていました。
これで日本のチケット2次流通が全面解禁されたことになりますね。(チケトレ以外の流通を認めない場合、独占禁止法に思いっきり抵触するので)
音楽業界初の公式チケットトレードリセール「チケトレ」プレオープン 定額取引限定の取り扱いに https://t.co/ZCBfuaFrAH— ashikagunso (@ashikagunso) 2017年5月9日
こういう時にパッと独占禁止法が浮かぶというところ、さすが経営者だと思います。僕のような外野からピーピー騒いでるだけの素人とはやっぱり違うな・・・と思いました。そんな風に思うこと自体失礼な話ですけど。
で、確かに言われてみれば転売サイトを選別するのって独禁法に絡みそうだな、という印象は持ちましたが、具体的に何がダメなのか?と考えてみてもなかなか答えが出てきません。
西山社長が指摘されているように、「流通経路の制限」という論点だと、基本的には直接取引する場合の流通経路を不当に制限したら独禁法上アウトですが、いったん市場に出た商品を再度流通(二次流通)させる場合はどうかというと、独禁法上は想定されていないように思えます。(独禁法はまったくのど素人なので、調査不足だったら申し訳ありません)
チケットの例でいうと、たとえばチケトレがイープラスに「うちを通してしか再販するんじゃねえぞ。チケキャンに卸したら取引停止するぞ」と要求したり、ぴあがチケキャンに「定価以外で再販するならもう売らないぞ」と言ったりしたらアウトですが、そうではないじゃないですか。だってプレイガイドと再販業者は直接取引してないですから。
直接取引してないのに、流通経路を制限するような形態で取引している(不公正な取引方法)だろう、という指摘はちょっと的が外れそうです。
とはいっても、ぴあやイープラスが「チケトレでの再販しか認めない、それ以外の場所で再販したチケットは無効だ」と言い出したらヤバいだろうということは感覚的にはわかるので、「流通」というキーワードにこだわらず他の条文をあたってみるのがいいかな、と考えました。
そうしたら、「チケトレ以外の再販チケットは無効」みたいな話は、流通経路の制限つまり「不公正な取引方法」の線ではなく、チケトレによる二次流通市場の「私的独占」に該当する、と考えたほうがしっくりくるんじゃないか、という考えに至りました。
そう思って条文を見てみますと、何のことはない、思いっきり該当してるじゃないですか。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第三条 事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
第二条(5)この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
「方法は問わない」のですから、ぴあやイープラスが「チケトレ以外の再販チケットは無効」とすることは、チケット再販という分野における競争を「実質的に制限」しているのは明白ですので、チケトレが認められるならヤフオクを始めチケキャンやチケストも当然認められますね、という話です。
え?定価以外での転売を行っているサービスはそもそも「公共の利益に反して」いるんじゃないかって?
いやいやいやいや。定価以外で売ってはいけない、なんてわけのわからないルールがあるのはチケットだけですからね。本やCDの価格は再販制度で守られていますが、中古品はその範囲外です。チケットの二次流通は中古品扱い(業者に古物営業法の免許が要求されることからも明らか)ですから、中古品の価格まで縛ろうとするほうがよっぽど「公共の利益に反して」います。
あーなんだ、簡単に終わってしまいました。
さてそうなると、次はチケトレとチケキャン、チケストなどが競合サービスとして市場で争うことになりますが、そうなったときにチケトレが勝てなければ意味がありません。果たしてチケトレは勝てるのでしょうか。
2次流通サービスの勝敗は、品ぞろえと手数料、あと安心感で決まると思いますが、品ぞろえは評判が高いところに集中し、低いところには自然とモノが集まらなくなるだけなので、結果論になると思います。
安心感については、それぞれ代金預かりサービスとか登録時の個人確認などで対応しており、正直どこでも同じだし、騙そうとする人はどこにでもいると思います。
まあ、唯一チケトレは高価なチケットを売れないので、詐欺をするメリットが小さいので必然的にチケット詐欺は少なくなるという可能性はあります。
で、一番わかりやすい手数料ですが、大手を比較してみるとこうなりました。
なお、これはチケット代を8000円(+税)と仮定しており、どのサービスも出品チケットの価格に応じて手数料が異なるので、チケット代が上下すれば変動します。あと、これ以外に送料がかかりますが、送料を買い手と売り手のどちらが負担するかは自由に決められますので、ここでは比較対象にしていません。
で、もうこの時点で買い手・売り手の手数料の合計はチケトレが一番高く、すでに価格競争力で劣っているのが明白です。しかもチケトレは出品手数料を「今だけ無料」としているので、将来的にここも取るようになればさらに手数料が上昇します。
チケストも出品側の取引手数料が無料になっていますが、これは今だけなのか今後もずっとなのかサイトからは微妙に判断できなかったので、いったんキャンペーン中?としていますが、もともと5%だったので、ここに5%が乗ってもまだチケトレのほうが高いです。
また、ヤフオクのプレミアム会員費は月額なので、毎回かかるわけではありません。
しかもチケトレにはこれに加えて「定価でしか売れない」という縛りがありますので、高騰しているチケットをわざわざ定価で売る人や、暴落しているチケットをわざわざ定価で買う人がどれだけいるかというと・・・どうなんでしょうね。
チケトレの唯一の武器は「公式」という看板だけですが、わざわざ既存サービスより高い手数料で後発参入してくるという態度からして、公式を掲げれば善良な音楽ファンは(手数料が高かろうと)みんなここを使うはずだ、という思い上がりが見え隠れします。正直ヘドが出ます。
音楽好きな人はみんな業界を守ろうと思ってくれるはずだ、一枚岩で悪質な転売と戦ってくれるはずだ、と思っているんでしょうか。はいはい馬鹿ですか。
本を愛する人がブックオフを使わず新品の本しか買わなくなって、出版社は立ち直れましたかね。音楽を愛する人がダウンロード販売にもTSUTAYAにも寄り付かなくなって、CDは売れるようになりましたかね。そんな話は聞いたことがありません。
まあ一人もいないとは言いませんが、身銭を切ってまで業界に貢献してくれる一般人なんて、普通はごくわずかですよ。大多数の人は便利で、欲しいチケットが確実に(あるいは安く)手に入るように流れます。これは間違いないです。
自分たちのサービスのほうが「顧客にとって便利!安い!安心!」のような売り文句で参入してくるなら全然いいんですが、セールスポイントが「公式」だけって・・・。お花が咲いているとしか思えません。
まあ、チケトレは「やったことに意味があって、まだ第一歩にすぎない」ということは運営側もインタビューなどで語っていますので、自分たちでも欠点はわかっていると思いますが、正直言ってこれだけ競争力の劣るサービスで参入してきて、しかも競争できることを(独禁法上)保証してしまったわけですから、競合サービスの中の人たちは大笑いしながら腕まくりしているのが目に見えるようです。
このあと、音楽業界の方々は議員さんたちと立法面での対策も進めていくようですが、まともに戦うと勝てないからお上に頼るとはなんとも情けない話です。
それも含めての戦略といえば戦略ですが、まともに比べたらユーザが選ばないようなサービスを残すために国に動いてもらっても、結局誰も幸せにならないし、ユーザは新しい便利なサービスに流れていく(最悪の場合、海外の二次流通サイトが日本に進出してきて日本企業が全滅する)だけだと思います。
ぜひともチケスト、チケキャン、チケ流の皆様には、政治家に頼るような情けない経営者にはならず、正々堂々と市場で戦って勝利してもらいたいと思う所存です。